インフレ目標

中央銀行は日々金融市場に供給するお金の量を変えて、目先の金利(短期金利)を調節している。インフレ目標は、政府や中央銀行が設ける「中期的に望ましい物価上昇率」をいう。あらかじめ市場や国民に目標を示しておき、中央銀行が、目標に近付けるように短期金利を上げ下げする金融調節を行い、物価上昇率を目標に近付けるわけだ。先行きの物価見通しがインフレ目標を上回った時は短期金利を引き上げ、インフレを抑える。逆に下回った時は短期金利を引き下げて、デフレに陥らないようにする。

目標があれば、物価や金利の動向にあった金融商品が選びやすくなる。先行きの物価上昇見通しが3%、インフレ目標が2%なら、中央銀行は短期金利を引き上げ、金利は上がっていくだろうとの見通しが立つ。企業は早めに借金をして工場を建てた方が金利負担が少なくてすむ。個人なら、住宅ローンは今の金利で固定型を選んだ方が得だと判断できる。また、戦争や原油価格上昇など、一時的に物価が急騰しかねない問題が起きても、中央銀行がインフレ目標に近付ける金利調節をして、中期的には物価は目標の範囲に収まっていくと予想できる。インフレ目標には、物価の乱高下を抑える効果も期待できる。

デフレはなぜ問題か

デフレがどういうことかを考えると、例えば、今100万円あれば、10万円の時計が10個買える。ところがデフレが続き、1個の価格が5万円になれば、20個買えることになる。100万円が200万円の価値になる。実は、多少のお金をもっている人には大変心地がいい。日本は戦後、皆が一生懸命働いてきたので、多少のお金はある。60歳で定年を迎えた人は、ある程度の資産があれば、やっていける。こういう人が怖いのは、インフレなんですよ。インフレになった時、中高年の人には働く場所がない。持っている資産もだんだん減っていく。

一方で、借金をしている人や企業にとってデフレは問題だ。例えば、1億円の借金がある場合、これが2億円になったとは思えないが、かなり増えているのではないか。多くの企業は借金をしており、物価下落で売り上げが伸びず、人を雇わず、新たな投資意欲もなくなる。日本経済全体からみれば、早くデフレから脱却した方がいい。 (出典:平成不況とデフレ


インフレは起こらなかった

21世紀初頭の小泉純一郎政権下で、銀行の不良債権問題の解決にめどが立った。この時点では、デフレから脱却し、インフレになるのではないか、という楽観論が出た。

当時は、「2007年問題」が懸念されていた。人口減、団塊の世代が定年退職し、年金世代となる。小泉首相の後、政治の流れが変わる可能性がある。消費税は上げざるを得ない。景気が良くなれば、金利が上がり、国債は下落するなど金融市場が大きく動く。ーーそのような展開を予想する声があった。

インフレになると、保有している資産の目減りをいかに防ぐかという問題になる。預貯金すれば良い時代ではなく、賢い投資家にならなければならない。証券投資に対して、試行錯誤したり、様々な人の話を聞いたり、様々なことをやってみる。人生を楽しく過ごすには、自己責任で資産を運用することが大切だ。今後、家計を襲ってくる大波を乗り切るだけの最低限の生活技術、ポートフォリオといった金融知識などを勉強する必要がある。多くの経済評論家や投資顧問業者が、そのような警鐘を鳴らしていた。

しかし、実際には、インフレは全く起こらなかった。