乗っ取り

“敵対的”と聞けば、カネにモノを言わせて企業を無理やり乗っ取ってしまうイメージが浮かぶ。相手の経営陣の同意を得ないまま、その企業の株式を抜き打ち的に買い占めて経営権を握ってしまうことだ。“乗っ取り”という物騒な表現もあながち間違っていない。

証券取引所の株価より高く設定した買い取り価格を新聞広告などで不特定多数の株主に告知し、通常20日程度の短い期間で目標数まで直接買い進める「株式公開買い付け」(TOB)が典型的なやり方だ。これを敵対的TOBとも呼ぶ。


主に外国資本

バブル崩壊後、日本企業をめぐる敵対的TOBが活発化した。長期的な不況で株価水準が低下し、優良企業でも株価が割安で本来の企業価値を下回っている場合などは、敵対的TOBの攻勢にさらされやすくなった。

日本企業に触手を伸ばすのは主に外国資本だった。なぜなら株価で換算した企業価値(時価総額)が日本企業に比べて大きく、それだけ豊富な資金力を動員できるからだ。

ポイズン・ピル

経済産業省は、日本の企業競争力低下を危惧し、防衛策の柱に「ポイズン・ピル(毒薬)」と呼ぶ手法を導入ことを考えた。敵対的買収を受けた場合、相手が容易に株を買い占めできないように、あらかじめ“毒”を仕込んでおくという意味だ。

企業が購入した自社株を従業員が退職金のかわりに長期保有し、安定株主を確保する「ESOP(イーソップ)」などの手法がある。

いずれも企業買収が盛んな米国で、20世紀から普及している防衛策だった。

多様な方法

ほかにも会社の組織や行為などを規定する定款を変更しておき、買収企業が株主総会で重要事項の議決権を容易に行使できないようにしたり、経営陣の入れ替えを困難にしたりするなど多様な方法がある。 ■h2:

敵対的買収の防衛策の例

敵対的買収の防衛策を紹介します。

ポイズンピル
買収者が株式を敵対的に買い占めた場合、買い占められた企業が一般の株主に新株を割安に引き受ける権利を与え、買収者の持ち分を低下させることで買収コストを引き上げる仕組み。買収者はピルを発動しないよう対象企業の経営陣と事前に交渉することになる。悪用されないよう、取締役会は株主に有利な条件の場合はピルの消却義務を負う。
ゴールデンパラシュート
敵対的買収により経営者が解雇された場合に、巨額の退職金などを支払う契約をあらかじめ結んでおく。買収側は会社を買うことができても、報酬支払いをしなければならないので買収コストが上がる。
パックマンディフェンス
敵対的買収を仕掛けられた時に、逆に相手企業に買収を仕掛ける。
ホワイトナイト
被買収企業にとって友好的な第三者企業に買収を依頼し、敵対的買収者を排除する。
クラウンジュエル
被買収企業の中で事業価値の高い子会社や部門を、買収を仕掛けた相手とは別の相手に売却することで、自社の価値を下げる。これにより買収することの魅力をそぐ。
グリーンメール
敵対的買収をかけられた企業が、プレミアムを付けた高値で自社株の買い戻しを行い、買収を断念させる。
ESOP(イソップ、従業員持ち株制度)
従業員に奨励金などで支援して自社株を取得させ、退職時に給付する仕組み。米国ではESOPで企業が資金を出す場合に一定限度で損金扱いを認め、税法上の優遇策を設けている。米ポラロイドが敵対的買収をかけられた際に急きょESOPを導入して防御した例などが知られている。